想像以上!と思える空間をつくるため、納得するまで考えることをやめない。杵家さん-vol.3
空間を使う人の目的と想いを受け取り、形にするプロである設計士たち。 「数ある設計ジャンルのなかからリノベを手掛けるのはなぜか?」「今とこれからの住まいのあり方って?」など、普段は聞くことができない設計士目線でのリノベに関するあれこれを聞いてみました。
目次
Quma 大学は文学部でフランス文学科だったとか…?どのような経緯で設計士への道のりを歩んでこられたんですか?!
杵家 建築に興味はありつつも文系に進んでいて。美大の建築科という道もあったのですが、街並みや文化から学べることも多そうと思いフランス文学科へ進みました。
Quma 卒業してからはどうされたんですか?
杵家 建築でなくても空間にまつわることを仕事にしたいと思い、学生の頃からアルバイトしていたインテリアショップで働くことにしました。
そこで働いていたのが6〜7年。そのあとリノベなどを扱う不動産の会社で1年。そのときに建築の学校も通いました。
Quma 色々と業界も変えながら働かれてたのですね!インテリアショップから不動産会社へ行かれた経緯は?
杵家 ショップでは店長を任されていたんですが、デザイナーが作ったものを売る立場だったので「自分がつくる側になってみたいな」と思ったときにやっぱり建築を学ぼうと思ったんです。
店舗に立つお仕事だと夜遅いので、働きながら建築の学校には通えなかったのと、建築に近い領域の業種も経験したいと思い、不動産を買ってリノベして売る会社に入社しました。その時に、リノベの面白さは知りましたね。その後建築を3年学ぶなかで、設計事務所でもアルバイトしていました。
古くなったものを引き継ぐことの価値
Quma なるほど。そうして様々な職種に関わってきて、今は設計だったりリノベに関わってるじゃないですか。いろんなものを見てきたからこそ、リノベにおいて価値を感じている部分とかありますか?
杵家 古いものを引き継いでいけることかな。
働いていたインテリアショップはアンティークものも扱うお店だったので、ヨーロッパへ買付に行ったりしていましたね。
ヨーロッパでは基本的に古い建物や古い物のほうが価値があるという考え方があって、椅子だったら使う人が変わっていく度に「青→黄→白」みたいに色が塗り重ねられて受け継がれていくんですよね。
たまに色が剥がれて下にあった色が出てきたりするのを楽しんだり、そういう面白さはリノベにもありますよね。手垢が残っていくというか。
Quma ヨーロッパの考え方は面白いですよね!
日本にも物を受け継いでいく文化って一部あるけれど、ヨーロッパほど浸透していないですよね。
杵家 実際に現地でそういう古物市とかを見て、気取ってないのがいいな、と思いました。ブランドものとかじゃない、アノニマスなものでも自分の価値観で気に入ったものを自然な感じで引き継いで使っていたりして。
Quma そういう文化って、日本にも根付いてほしいな、と感じますか?
杵家 日本でも昔から「もったいない」という精神があったり、リノベも広く浸透してきていますが、まだ敷居が高いと感じる方もいたり、あとは街並みというスケールでみるとヨーロッパほど意識されてはいないかもしれないですね。
ヨーロッパなどに比べると日本って高温多湿で、気候面のこともあるので、同じように100年とか住み継いでいくのは難しいかもしれないけれど。
Quma 条件は違うけれど、スタンスとか建物との向き合い方については参考にしたいですよね。
杵家 古ければいい、というわけではなくて、引き継ぎながらアップデートしていくという。東京は古いものと新しいものが入り混じって混沌としながら共存しているのが面白いですよね。
渋谷の宮下公園が「宮下パーク」になって、今までは高架の脇に隠れていた「のんべい横丁」が丸見えになって宮下パークと並んでいるんですよね。その新旧のものがミックスされた風景は東京らしくていいなと思いましたね。
Quma 住まいの空間のなかだけじゃなく、都市の空間でもそういうところに目をつけるんですね!面白い。
“想像以上”に持っていく難しさと楽しさ
Quma リノベに対して、もっとこうしたいな、と感じている部分とかはありますか?
杵家 リノベをする方は、こうしたいっていうイメージがあったりとかすることも多かったり、ピンタレストとかでイメージを共有してもらったりもして、それをいかに形にしていくかなんですよ。
でも、「希望の要素を空間に集めました」って単純にはめ込んでも面白くないんですよね。
Quma それは他の設計士さんやQUMAのコーディネーターもよく口にしているかも!
杵家 インテリアショップでコーディネートしていた時も、ピンタレストの好きなイメージを実現したいだけなら、コーディネーターは必要なくて。その上で依頼して下さるということへのお返しをきちんとしないとと思ってました。
リノベーションも、イメージに基づくだけだと面白みがないというか。何かプラスアルファの新しい驚きみたいなものが出てこれるようにできるといいな、と思ってやっていますね。
Quma 杵家さんと一緒にNさんのリノベを担当したとき、Nさん自身が思いつかなかったようなところを、しっかりと増大させていくところがすごいなあと感じていました。
お施主さんに寄り添って増大させる軸と、杵家さんらしさの軸の2軸があると思いますが、杵家さんらしさのほうも出したいというのはあるんですか?
杵家 寄り添うのが一番ではあると思うんですけど、その設計士個人の「らしさ」も出していく面白みをお施主さんにも味わってほしいと思うことはありますね。他人に委ねるからこそでてくる視点って必ずあると思う。
Quma その人と一緒につくるからこそ生まれるもの、を面白がるというか。
杵家 はい。リノベだとさらに、既存の物件という要素も入ってきて、その3要素が交ざりあうことでしか生まれないものをつくりたいですね。
Nさんとかだと今まで住まわれていた家をすごく気に入っていたんですよね。モルタルの壁とか猫脚のバスタブを気に入られていて、モルタルの壁はそのままリノベでも採用したり。
お母様から引き継いだヴィンテージ家具を多くお持ちだったのでそれを引き立たせる空間にしましょうとか。私自身がアンティークのものや、古い物を受け継ぐ精神に共感していたからこそ、Nさんともとても楽しくお話を進めさせてもらって。
その人が引き継いで持ってくるものがあって、そこにわたしの視点で要素をミックスして空間をつくっていけるといいなって。
Quma 杵家さんは、お施主さんのやりたいことの「ストライク!」なものも持ってきながら、こうしたら面白いなっていう杵家枠も用意してるなって感じましたね。
杵家 かたまっちゃうのが嫌なんです。
インテリアショップにいたころから、いろんな時代や国、テイストのものをミックスさせるのが好きで。リノベのお客様でも、あるひとつのテイストだけが好きっていう方はなかなかいないと思うんです。
あえて少し異質なものもご提案して「好き」の可能性を拡げたい。そしてその一見ばらばらな好きをいかにまとめあげるかっていうのを重視しています。
「そういう系統ね〜」 みたいにはしたくない。マイナスではない「なんかちょっと変」をつくりたいというか……その人らしさのポジティブな「ちょっと変」につながるといいのかなと思います。
Quma その人らしさを奇抜に出していくってより、その人が元々持っているものとかとのバランス感を調整するみたいなところがすごく上手ですよね。かっこいいなあ。
杵家 これからもずっと色々ミックスした面白いものっていうのを作り続けたいなって思います。
納得するまでは頑固です、私!
Quma ずばり!杵家さんの強みや得意としていることはありますでしょうか?
(しばし悩む。)
杵家 むずかしいですねえ。インテリアの相談もできますよ!とか?
あとはやはり、色々ミックスしていくのが得意なので、やりたいことがありすぎる方、逆にイメージはあるけどもう少し面白くしたいという方はご相談頂けると嬉しいですね。
Quma 塗装壁からペンダントライトの線を出して天井にフックを釣ることで、天井をふさがないでもペンダントライトを使ったり。前例がないようなこととかもやってみたい人に出会ってほしいですね。
杵家 「どういう家にしたい」とかそういう話だけじゃなくて、好みのものの話しからヒントを探してみたりとか、逆に本当に何も関係ない話から着想を得てもいいと思うんですが。
Quma 僕から見てて思うのは考える工数とかを度外視してでも時間をかけて、もっとよくできないかなーっていう意志が伝わってくるなあと思いますね。
杵家 そうですね、けっこう頑固って言われるんです。納得できないと進めない性格だから、自信をもっておすすめできる空間になるまでずっと考えちゃいます。
Quma これだ!を見つけるまでやるといったところでしょうか?
杵家 あきらめないで一緒につくっていくっていうところっていうことになるんでしょうか。
Quma お施主さんにとってはとても心強いですよね。
杵家さん、ありがとうございました。設計士という立場ならではのリノベトークを楽しんでいただけたでしょうか。実際にQUMAのリノベで杵家さんを設計士として迎えることもできますので、過去の事例もぜひご覧くださいね。
想像以上!と思える空間をつくるため、納得するまで考えることをやめない。杵家さん-vol.3