家族の思い出を紡ぎ続けていく、大きなダイニングテーブルのある生活。
東京都渋谷区・広尾の住宅地の入り組んだ場所に建つ小さなマンションの一室。 もともとは旦那様のご祖父母が住まわれていた部屋に3人家族で住むことに。 和室の様式だった空間を、Sさん家族の賑やかな暮らしに合わせてリノベーションしたことで、思い出もまた引き継がれていくことになったのです。
家という環境は、家族の思い出と強く結びつく。
みんなで囲む賑やかな食卓も、テレビを見る時間も、寝転がって見える天井の景色も…
きっと、生活の何気ないワンシーンが私たち家族の記憶をつくっているはず。
だからこそ、大好きなものと、何十年も愛着をもって付き合えるものと一緒に暮らしたいもの。
今回リノベをしたSさんご家族がその仲間に選んだのは、まるで賑やかな思い出が積もっていくような、大きな大きなダイニングテーブルでした。
リノベ前のストーリー
祖父母が大切にしてきた家を引き継いで
Sさんご家族は、飲食のお仕事をされている旦那様と、奥様、小学生の息子さんの3人暮らし。旦那様のご実家の持ち家が空くことになったタイミングでお爺さまらが大切に暮らしてきた部屋を引き継がれたそう。
そんな一家の思い出の詰まった部屋は、畳もへこむなど老朽化が進んでいました。「すごく暗くて、天井も低くて襖で仕切られた和室で。今後のことを考えたときに、大切にしていくためにも直すことにしたんです」と語ります。
そうして今後のことも考えた末にリノベーションを決め、いくつかの会社に相談。そのなかでも、建材のメーカーの決め方などの自由度の高さに惹かれ、Qumaと相談を進めることになりました。
売ったり貸したりして、別の場所に住むという選択肢はなかったのですか?という質問には、「主人が大事にしていた空間なので、他の人に受け渡すより、祖父がつくった庭とかを引き継いで、活かして住んでいけたらなって」とSさん。この場所でずっと昔から育まれてきた素敵な時間を想像させるのでした。
こだわりポイント
思い出はダイニングテーブルに積み重なる
躯体現しで印象的な梁と柱、揃いにそろった木材でつくられた家具が気持ちよく溶け合うリビング。木のあたたかみを感じる落ち着きある空間です。
和室が並んでいたところの壁や襖をなくし、広々としたLDKを確保。将来的には子ども部屋を区切れるようなプランになっています。
真っ先に目に入ったこの部屋の主役は、ドンと構える大きな大きなダイニングテーブル。
一辺が150cm近くある正方形のテーブルは、寝転がっても気持ちよさそうなほどの大きさ。
「ソファーでテレビを見るより家族で食卓を囲むダイニングを中心におきたい」というお話から、造作でテーブルをつくることになりました。
「ばーって囲んで最大15人とか集まって、スツールとか子ども用ベンチ置いたらなんとか座れちゃうんですよね。思い描いていたようなことにはなっていて」と驚きの人数をさらっと口にする奥様。
今日もこのダイニングで起きているであろう楽しいハプニングは、次の「思い出話」コーナーでじっくりと語っていただきました。
この空間で目を引くもうひとつのもの、それは梁と柱。
一般的に開放感を大事にするリノベーションでは、梁や柱は厄介なものだと思われがち。けれど、SさんとQumaが選んだのは意匠として残し、活かして輝かすことでした。だから、目立たないよう白系の色で塗るのではなく、モルタルというコンクリートの表面に使われる材料を塗って仕上げました。
「ザラッとした感じがすごく気に入っていて大事にしてます、これのおかげで普通の雰囲気の場所にはもう住めないかも」とSさん。
長い間、この部屋を支えてきた芯の部分である柱や梁。それをあえてむき出しに、空間の大事な要素として取り込むことで、つないできた時間をゆるやかに感じさせるのです。
さて、主役がテーブルだとすれば、この空間で名脇役を務めるのは同じ木材を使って造作したこれらのものたち。
・フルハイトドア(ドア枠を設けないスタイルのドア)
・ワークデスク
・テレビデッキ
・飾棚
・収納タンス
造作家具は、空間に微妙な隙間が生まれたり、家具ごとに木材の色と質感が違って統一感がない…ということが起こりません。まさに、リノベならではの手法です。
飾棚にはご主人の趣味で集めているフィギュアや、海外出張から持ち帰ったお酒などが並びます。奥様も気づかないうちに色んなものが増えていくそう。これだけ沢山のものを置いても空間の印象がゴチャっとしないのは、家具の材質が同じだからこそです。
ワークデスクでは、漢字ドリルに励む息子さんの姿も見受けられました。
思い出話
リノベの思い出語り
Quma 夏休みも全部予定いれられてたり…ご友人とのつながりが濃いんですか?
Sさん 主人が忙しくて、日曜日だけは子どもといれるようにしていて。
そういうときに、キャンプに行って夜は飲みに来るとかになるんですよね。
Quma あ!うちも同じように日曜は子どもといる日にしています。
そのときは、どんな方を招かれるんでしょうか?
Sさん 主人の会社のお店のスタッフとかですね。日曜の3時とかに集まって、みんなでご飯食べたり飲んだりは月1ぐらいでやっていて。
Quma スタッフとの慰労会的な…?
Sさん プライベートがほとんどなくて、コミュニケーションをとる時間もないのでそういう時間設けるのも大事なのかなって。
面白くて、毎回テーマを決めるんですよね。「今日はメキシカンです」とかってなるとメキシカン連想させるものを内緒でひとり1品持ってくるとか。お酒もそれに合わせたりして。
Quma ええー!めちゃくちゃ楽しそうですね。
Sさん 唐揚げの日って決めて、唐揚げをめっちゃ調べるらしいんですよ、1週間ぐらい。いろんなところの唐揚げを食べ比べるとか。
みんながそれぞれ持ち寄ってとかにはこのテーブルはぴったりですね(笑)けっこう傷んできてますけど、味がすごく気に入っていて。
Quma それは本当に…嬉しいですね。
Sさん 家をみんなの場として使えるようにするなんて、リノベしないと出来なかった生活スタイルだから色んなことが変わったなって思います。
Quma こんなにでかいダイニングテーブルはなかなかないですからね。
Sさん ホットプレートとか3個ぐらい置けるんですよね(笑)
たこ焼きよくやるんですけど、3チームぐらいでわかれてどこが一番おいしくできるか、みたいな。
Quma 最近、中国の円卓が注目されてて。普通のダイニングテーブルって向かい合うので、ホスト側とゲスト側が自然と分かれてしまう。でも円卓とか正方形だと分かれなくなるんですよね。みんなが真ん中を見て、ご飯を食べる。そういう良さもあるのかも。
Sさん たしかにー!
円卓といえば、家族3人でご飯食べるとけっこう難しいんですよ(笑)だから、まわるターンテーブルつけようか?とか言って自分たちで作れないかなあーって木を見に行ったこともありましたね。
Quma おお〜。たしかに真ん中に付けられるものあったらいいかも。
これと同じ木材も、工場で切ってもらってやればできますし、大工さんがいらっしゃれば一日で出来ますよ!
Sさん それはお願いしようかな。
飲んでるとみんな動かないじゃないですか(笑)
だから、誰かがスライドして飛ばす!みたいになってます。
いいですよね、ターンテーブル。使ってみるとこういうのに出来たらいいねっていうのが増えていくのもリノベーションの楽しさっていうか。一回やってこれで終わりではなくワクワクが続いてるから、それはいいですね。なかなか既存のものってそこで止まっちゃうから。
Quma うんうん。いつも3人のときはどんな風に座ってらっしゃるんですか?
Sさん 角を利用して、2:1で座るんですけど、一人だけテレビが見れていいなって話になったりするんですね。でも、向かい合うとご飯をどこに置くかっていう議論になって(笑)それはなにか、アレンジをしたくて、小さいテレビをもうひとつ買う?とかそんなにテレビ見たい?とか。
それで、主人が絵を書いて説明しはじめたりして!
Quma 単純に解決するとなれば、付けたり外したりできるやつで、このテーブルの4分の1サイズのテーブルをつくるのはありですね。家族でテレビ見ながらご飯食べたいときだけ付ける。
Sさん ああ。たしかに、それなら一発ですね!
Quma 他にも、何パターンかありますね。
テーブル下につくっている収納のギリギリまで天板をカットして、畳んで下に倒せる天板の仕様にしたり。
Sさん そっか、なるほどー!主人と相談してみます!
この広さだけど、ちょっとずつ変化できるかなっていうのは続いてるっていうか。出来てからのほうがリノベの本をまた読んでますね。主人もずっと変えていきたいって言ってます。
(このあとも、今後のテーブルアレンジ展開を語り続ける一同……)
その後の暮らし
すべて壊してしまうのは簡単だけど
どんなポイントをお話されるときにも「これからが楽しみなんです」と、しきりに口にしていたSさん。息子さんが大きくなったとき、家族が増えたとき……など小さなDIYやアレンジを考えるのが楽しくてたまらないそう。
特に楽しみなのは子ども部屋のアレンジ。限られた空間を有効活用するような仕組みづくりに興味津々なのだとか。
ご祖父様が大切に手入れをされていたというお庭には、デッキを敷いて新しくする案も上がっていましたが、結局は予算と他のポイントとの兼ね合いで手を入れないことに。
「お庭の手入れを手伝ってくださる方が昔からの方で。この木を切ったりすることになったら、いろんな人が悲しむなって思いましたね。近所の人とかはたまにここを見て楽しんだりしてるから、そんな人たちの気持ちも考えるとやらないでよかったのかなって」と振り返ります。長くこの場所で根をはってきたからこそ、変えるもの・守るものを丁寧に選ぶことを心がけているようでした。
誰かにとって大切だった場所を自分たちらしく作り変えて、また思い出を積み重ねられる空間にすること。それは、全てを無かったことにして新しいものを作り出すよりも、ずっとずっと意味のあることなのかもしれません。
今日もあのダイニングテーブルには、家族の笑顔と美味しい料理が集まっていることでしょう。