仕組みごとつくり直す造作収納で、オンリーワンのシンプル部屋を。
今回のリノベーションの主役は遊び心も取り入れた壁一面の造作収納。 舞台となったのは、東京都江東区・森下駅近くの隅田川の風が気持ち良く吹き抜けるマンションです。
待ちに待った新居への引っ越し。持ち物をしまってみたら「クローゼットに収まらないなあ…、タンス買うか物を捨てるか…」なんて悩んだことがある人も少なくないはず。
けれど、収納のあり方についてTさんとQumaが導き出した答えは少し違っていました。
それは、ものを買うことでも捨てることでもなく、部屋の構造とサイズに合わせたオンリーワンの造作収納をつくること。リノベーションで壁を抜いた部屋に新しいシステムを取り入れたのです。
出来上がった部屋は、物が少なく見え、無機質なまでにさっぱりとした雰囲気に。ミニマリスト的な考えをもつTさんにはぴったりの選択のようでした。
リノベ前のストーリー
価値観が似ていたからできたこと
Tさんはスポーツ関係の会社にお勤めの女性。賃貸を借りるための条件が揃わず、物件を購入することを決め、中古のマンションを自分好みに変えたいと考えました。それから、いくつかの物件を内見していくうちに「団地のような集合住宅は違うなあ」などと避けたい条件が見え、「リノベ向きか、天井高があるか」と欲しい条件が整理されていくように。
隅田川の見えるこの部屋の眺望が気に入り、条件にも合っていたのでこの部屋に決定されました。
その後、不動産屋さんからの紹介を受けてQumaとリノベーションの相談を始めていくことになりました。Qumaの担当スタッフもアウトドアやスノボが好きだったこともあり、スポーツ好きのTさんとは方向性が一致したそう。「紹介していただいて、他の候補とか全然検討しなかったです。きっとQumaの担当者さんと趣味とか価値観が似ているタイプだったから」と語ります。
こだわりポイント
全てが一体化する、不思議な造作収納
玄関を開けて広がるのは深海のような雰囲気の廊下空間。その先の扉をひくと、白が引き立つ開放的な空間に引き込まれます。そして、ふと振り返ると、くぐってきた扉は大型の造作収納の一部なのだと気付かされるのです。
この不思議な空間と、生活感のない無機質さを追求したのがTさんでした。
もともと白いレンガ調の壁紙が一面に貼らたリノベ済み物件だったこの部屋。3つに分けること可能だった部屋を1つのLDKにすることで、開放感をプラスしました。フローリングは既存のものが壁や収納ともバランスよく調和することになり、そのままにしています。
この造作収納を作ることになったのは「どうせつくるなら普通の賃貸に入ってるような収納が嫌だ!」というTさんの言葉から、Qumaが提案したことがきっかけ。それまでの既製品の収納を入れる予定を覆し、設計者と相談を進めてひとつずつ決めていきました。
特に、開き戸の収納家具ではなく引き戸になっていることはこだわりポイント。空けっぱなしになっていても扉が開閉する分のスペースをとらないこと、状況に応じて隠すものを隠せることも考えました。
不思議な造作収納の1番左の扉は、洗面所・バスルーム・玄関につながる廊下とリビングを結んでいます。ちょっとした隠し扉のような遊び心も取り入れつつ、ドアを別ものとして付けたときの圧迫感を緩和。色を床に近いブラウンよりの色にしたのも、存在感を出しすぎないためなのです。
5面のうちのキッチン側の2面は洋服やバッグを収納。上部にも普段使わない寝具などを収納する奥行きのあるスペースを確保しました。
そして、日本のリビングで隠すことを前提にしないものといえば、テレビ。
そんなテレビを置いたのは収納の4面あるうちの2面の中のデッキスペース。引き戸をスライドすればテレビも隠してしまうことができる斬新な仕様です。
「基本開けてますね。人が来たりとか隠したいなあと思えるときに、普通は隠せないけどそういうのもぜんぶ隠せたらいいなあと思って」とTさん。目的に応じて変化させながら、小さな空間でも賢く活用することができるようになりました。
天井との30cmほどのスペースに間接照明を設けて夜は上質な雰囲気を演出できる仕様です。
こんな風に、限られたスペースに既成のものをはめるだけでは出来ないようなことができるのが、造作収納の魅力。オーダーメイド家具とも違い、それぞれの部屋の仕組みを捉え、壁やドアとの一体化など、より適した造形をつくることが可能です。もちろん、自分の好みに忠実に合わせたデザインや材質を選ぶこと楽しみを味わうこともできます。
廊下とバス・トイレ空間はあまり目にしたことのないようなグレーの空間。深海の中にいるかのようなしっとりとした暗さが落ち着きます。
玄関収納の扉は180度開く仕様で姿見サイズの鏡を取り付け。扉の向こう側に機能性をもたせたことで造作収納とも共通した、隠す美しさを追求しました。
さらに、この空間に似合うミニマムなデザインの取っ手や照明スイッチをあしらい、スマートさが引き立ちます。
キッチンは設備を変えずにシートだけを貼ってTさん仕様に。「なんか前のキッチンは色もアイボリー的な感じで“キッチン”感があるのが違う気がしていて…色を変えるだけでキリッとさせることできましたね」と、ほとんどの決断ポイントで生活感を出さないような選択をしていたTさんでした。
思い出話
Qumaとリノベの思い出語り
Quma ちゃんと打ち合わせしてるのに、途中で設計担当の方とTさんにいじられ始めるみたいなことはちょこちょこあったんですよねー(笑)
Tさん ふふ(笑)わりと賑やかでしたね。
1番最初の打ち合わせのときに、担当のスタッフさんがスノボするっていう話をしていて、私もスノボ関係の仕事をしていたこともあって、そこらへんの感覚は一緒だなーって思ったんですよ。
感覚が違う方と相談しても、「これだけ趣味のものあります」ってなると、それをやらない人にとってはわからないじゃないですか。「レンタルスペースに預けたら?」とか言われたらちょっと行き違うかも…。
打ち合わせも楽しくて。設計士さんもあれやこれや手をかえて提案もってきたいただいたりとか。
Quma Tさんも決めるときはスパッと決めるけど、悩むときは悩まれて。そのあとに、1〜2週間したら全部スパッと決まっていくのが楽しかったなー。
Tさん ほんというと、打ち合わせ前にちゃんとチェックしてなくて…。
Quma えっ、そういうことだったんですね!
Tさん リノベをするというとかなり気持ちもエネルギーも傾けている人が多いなかで、私はけっこう仕事の合間に直前直前で調べものして、こういう決め方でいいのかなって途中不安になりましたね…。
Quma いっかい間を空けたりしたこともありましたね。力のかけ方や、こだわりも本当に人それぞれです。
Tさん 壁紙にすごく迷ったんですよね。
実際の日の入り方で違ってきたから、全部現場で貼ってみて試しましたもんね。
Quma そうでしたね。面積が広くなる部分は現場で見て決めてもらうこともよくあります。
Tさん そういう選択肢とかも、候補を出していただくと自分の好みがよくわかるんです。
グレーとかの色味がいいなって自分の好みはわかっているんですけど、好みだけだと飽きてしまったりしないかなーとか。
だから、プロの人の意見はちゃんと聞きたいなって思っていました。色のバランスとか。グレーの壁紙に合う取っ手の色だったりとか、そういう相談ができたのはよかったですね。
Quma 設計士も自分の風合いによっちゃったりするし、住む人も自分の好みに基づいたりはするから。そこはある程度、客観的にというかどっちにも寄りすぎないようにバランスをとるのが僕ら案件を担当するスタッフなのでね。
僕らもそのバランスには気をつけるようにしています。
Tさん 要所要所にスタッフさんの好みも入ってたりもしますね!?(笑)
造作収納を作ろうって提案してくださったのもスタッフさんだったし。
Quma そうでした。バランスも取りつつ、お施主さんの温度感に合わせて色んな提案もさせていただきます!笑
ちなみに、これからリノベをしようと思っている方々にアドバイスはありますか?
Tさん さっきも少しお話したのですが、担当の人とは好みとか価値観とかの方向性が一緒のほうがいいと思います。
Quma うんうん。
Tさん 打ち合わせしてるときのちょっとした話で信頼ができてくる。たぶん、全然違う生活スタイルだったり、共通点がないとビジネスライクになっちゃいますよね。
そういうんじゃないほうがいいなーって思いますね。
Quma やっぱり、そこなんですね。
Tさん スタッフさんも設計者さんも不思議な人だったし(笑)
あとは、最初のころに自分の好きなもの教えてくださいって言われたのがすごく大変だった。あんまり好きなもの集めたりしないので、イメージを伝えるときにこういうのがいいですっていうのはあるけど、実際に写真とかを見始めてしてしまうと大量に見つけられちゃうから。
もうちょっと事前にたくさん考えておけばよかったなーって思いますね。
Quma そうですね、それはあったほうがいいのかもしれません。
Tさん 大枠のイメージがないと、「かわいらしくて」って言っても人ぞれぞれ可愛らしいの定義は違うし……
無機質でもマットとツヤで違うし、そういうのは伝えられる画像とかもっていたらよかったですね。
その後の暮らし
本当に暮らしてますか!?
思い切った造作収納の気になるその後。引き渡しから1ヶ月ほど経った際にお伺いした際は、「本当に暮らしてますか?!」というほど生活感がなく驚くQuma一同。
ところが、収納の引き戸を引くとテレビや本、ぎっしり詰まった洋服が。「収納が限られるから物を増やさないようにできるし、使いやすいですよ!」というTさんの満足気な言葉にホッと胸を撫で下ろすのでした。
また、地元で暮らしている両親に何かあったときはこちらに呼んで一緒に住めるように、とキッチン横は余白をもたせた空間に。「長く住むのでちょっとずつ自分でカスタマイズできるスペースを残したほうがいいかなと思って」と語ります。
特に目を引くような凝ったデザインがあるわけでもなく、すっきりとしているのに機能性やこだわりが守られているTさんの空間。それは、ただ物を減らしたり色をなくしたりするだけではなく、考え抜かれた賢い収納と時間をかけて選んだ色に囲まれているから。
最初は不思議に思っていたこの部屋がなぜ素敵なのか、合点がいったのでした。